HOME »  社長コラム » 「刀」

社長コラム

「刀」

2017年9月 1日掲載

 時は昭和50年代前半、コオロギの声が鳴り響き、秋の深まりを感じるようになったある晩のこと。 タンクトップ姿の父が真剣な眼差しで
「タカユキ、マサユキ、いいかい、これから刀の手入れをするから、ふざけちゃだめだぞ。」
 そう言って家のどこからか刀(真剣)を持ち出してきた。改めて記憶を辿ってみたが、刀が保管されていた場所はどうしても思い出せない...父は刀の保管場所を家族の誰にも教えなかったのだろう。親戚が刀鍛冶だったこともあり、父はコツコツ貯めたお金で刀を購入し、家宝としていた。
cl206.gif
 座頭市や水戸黄門などの時代劇で、侍が悪党どもを刀でバッサバッサと切り殺して行く光景を目にしているだけに、刀がどれだけ危険であるかは子供でも理解できた。
 刀の手入れは、年に二、三度行われたが、兄も私もその様子を見るのが毎回楽しみだった。特に刀を鞘から抜く瞬間、ピーンと張り詰めた空気が漂った。兄と私は少し距離を保ち、固唾を飲んで見入ったものだ。ピカピカに輝く刀を目にすると、不思議なことに心が洗われたかのようにスーッとした。
 刀の手入れを要約すれば、古い油を拭きとって、新しい油を塗りかえ、刀身が錆びないようにすることである。手入れの一連の流れは記憶が薄れてしまったが、打粉と呼ばれる道具で刀身をポンポンと軽くたたいていた様子だけは、今でも脳裏に焼き付いている。手入れを済ませ、再び刀を鞘に納めると、決まって「次はいつ手入れするの?」と父に尋ねたものだ。
 父の遺言には、二本ある刀は孫のマナブに託すと記されていたそうだ。甥っ子が刀の手入れを行ってくれることを、父も天国で楽しみにしていることだろう。

このページの先頭へ